『長い夜に』  サンプル




「は……」

「ん、あっ…!」


 熱のこもった吐息が部屋の中に満ちている。


 簡素な部屋にはあまり家具はない。余計なものは好まない姜維の部屋と言えばそれらしい。


 その部屋の片隅にしつらえたベッドに、衣服も乱れた二人が絡まり合っている。
 夏侯覇は、姜維に絡みついているシャツを、もどかしげに引き剥がす。そのはずみでボタンが取れてしまったが、そんなこと気にする余裕は夏侯覇にも姜維にもない。


「ん!」


 散々姜維の口内を貪っていた夏侯覇の唇が、姜維の首筋や鎖骨に赤い花を散らしていく。


 わずかな痛みが伴い、うっ血が至る所に出来ているというのに、夏侯覇の熱が点在しているせいで、その痛みでさえ姜維の官能を刺激する。


 戸惑う姜維などお構いなしに、彼の唇が姜維の胸の頂に至った。


「立ってる」

「え……?」

「良かった、気持ち良いか?」


 上目遣いに見上げた夏侯覇に、思い切り真っ赤になっている顔を見られたことで、さらに羞恥に襲われる姜維。


 そんな姿も愛おしそうに夏侯覇は目を細める。目の前にある、ぷくりと膨れた彼の頂に鼻先を擦り寄せると、ひきつれたように姜維が息をのんだ。
 そのままぐるりと舌でなぞってから、ぱくりと口に含む。


「ん!」


 ねっとりと舐める一方で、もう片方は指できゅっと摘んでみると、思いのほか姜維からの反応が大きく返ってきた。


「いっ」

「姜維は痛いのが良いのか?」

「は……?」

「まぁ、良いや」


 話はそこまでとばかりに、わざとちゅっと音を立てて吸いつく。
 いちいち反応してくれる姜維が可愛い。


「夢、みたいだな」


 息遣いの荒い夏侯覇は、惚けたようにそう呟く。普段彼が気にしている童顔に、並々ならぬ艶めかしさが浮かんでいる。


 それを見るにつけても、ああ、この人はやはり素敵な人であったのだと、姜維は妙に納得して自分から彼を求める。
 不思議な高揚が姜維の思考力を奪っていた。


「夏侯覇殿」


 じとりと汗ばんだ背中に手を添わせると、くすぐったそうに夏侯覇は身じろぎした。


「わっ、いきなりなんだ?」


 夏侯覇が驚いたことに、姜維は機嫌を良くした。
 上気した顔に笑みを浮かべる。